1.背景と目的 第三回国際理科数学教育調査(TIMSS)によれば、日本の子どもたちは、算数・数学科の好き嫌いを問う質問で、参加国中最下位を占めている。情意的な側面はより継続的な影響を及ぼすために深刻な問題である。その背景には子どもたちが数学を身近な存在と感じていないことが、上記の調査の中で、分かった。 そこで、本研究では、長崎(1999)の横への数学化と数学の応用という二つの方向性を包含する「数学と社会をつなげる力」という観点を用いる。算数から数学への移行期のため抽象度が急に増す中学校数学を対象に、社会・文化の中に見られる多様な民族数学を利用して、子どもたちの「数学と社会をつなげる力」の育成に向けた教材開発を目的とした。 2.実績概要 上記の目的を果たすために、 (1)この課題に関連した参考文献をまとめそれらを批判的に考察した、 (2)民族数学に基づく新しい教材開発の原理として、動詞型カリキュラムを取り上げ、活動をベースにしたカリキュラム構成の方向性を明らかにした、 (3)これまで行ってきた民族数学に基づく授業実践をまとめた。 当初、教材開発を通した数学と社会をつなげる力の形成、子どもの数学観変容を念頭においていたが、参考文献の整理による数学教育研究の基盤作りへとシフトし、その成果を今回まとめた。なお、外部との関係では、公開シンポジウムを開催し、2004年12月に大阪教育大学元教授松宮哲夫氏、内モンゴル教育大学教授代欽氏を招き、中国・数学教育の持つ文化性、歴史性について、また数学観の変容に関しては、2005年3月にMonash大学名誉教授A.J.Bishop氏を招き、数学教育の価値観について認識を深め、本研究をまとめるに当たり活用した。
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