研究概要 |
本年度は,演奏初心者の親が初学者の子どもと容易にピアノ連弾できるようにするシステム"Family Ensemble"を構築した.近年,ピアノレッスンに連弾が採り入れられ,生徒の練習意欲向上や,パートナーと呼吸を合わせることによる音楽性の育成に効果が認められている.しかし子どもが,家庭内で演奏経験の乏しい家族と連弾を行うことは難しい.今回構築したFamily Ensembleでは,子どもの親が担当する連弾のパートを,正確な音高列を出力する機能と,子供の演奏位置を追跡する機能により支援することで,全くの初心者の親が,演奏誤りの多い初学者の子どもとでも連弾できるようにした.実装に先立ち,ピアノ演奏初学者である子どもによる初見演奏データを収集し,どのような誤りが生じるかを分析した.その結果,従来から自動伴奏システム研究で扱われている,余分な音の挿入,音高の誤り,音の脱落,という3種の誤りのほかに,突然前の部分に大きく戻って弾き直すという誤りが極めて多発することが明らかとなった.そこで,既存の演奏位置追跡アルゴリズムにこの種の誤りにも対処可能な機構を加え,初学者の子どもの極めて不安定な演奏にも安定して追従できるロバストな演奏位置追跡アルゴリズムを考案,実装した.Family Ensembleを使用する場合としない場合の両方について,合同練習を5組の被験者ペアに行ってもらったところ,使用した合同練習では,二人での連弾の回数と,子供の独奏による練習回数が大幅に増加した.この結果から,Family Ensembleにより全くの初心者と初学者によるピアノ連弾が可能になることのみならず,子どもの練習意欲が増すことが示された.さらに,初心者と初学者のペアでありながら,お互いに音楽的なアイデアや演奏技術について意見をかわしている様子が見られた.
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