本研究では聴覚障害者の発声時顔動画像から発音学習度の推定方法を検討した。 被験者の唇にマーカーを6点付けて40単語を発声する顔を外部同期CCDカメラ2台で撮影した動画像をパーソナルコンピュータに収録した。得られた顔動画像のマーカー6点を、ライプラリー社の移動物体3次元移動解析ソフトMove-tr/3Dを用い、発声音韻に着目して解析した。健常の被験者(本研究代表者)の解析結果、唇の右側および左側端点(点A、点B)、上唇および下唇の中央点(点C、点D)の4点に注目し、点AのX座標、点DのY座標、点A・点B間の距離(AB距離)、点C・点D間の距離(CD距離)、∠CAD、∠ADBの6物理量、そしてそれぞれの変動速度、合計12物理量の検討を行った。ただし前額面の水平方向、すなわち点Aかう点Bの方向をX軸、前額面の鉛直方向をY軸、そしてこの面に垂直の方向をZ軸とした。聴覚に障害のある5名(S1、S2、S3、S4、S5)の被験者が3音節または4音節からなる40単語を2回発声した。被験者の発音学習度は発声した40単語音声の聞き取り試験を成人7名(男性3名、女性4名)で行い求めた。また先の健常の被験者の検討結果から、点AのX座標、点DのY座標、AB距離、CD距離、∠BAD、そして∠ADBの6物理量の極値は母音の特徴量、また前述の6物理量の変動速度は子音の特徴量として有用であることがわかったので、前述の12物理量を発音学習度に着目して検討た。その結果それら物理量と聴覚障害者の学習度は高い相関のあることは認められたが、正確に発音学習度を推定することはできなかった。顔動画像に常には現れないが、音韻の形成に非常に重要な働きをする舌の動きの物理量を加味すれば、発音学習度の推定は可能になると考えられる。
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