2005年度には、北京で開催された国際科学史学会において、強い要請を受けて19世紀日本における西欧近代植物学の導入について発表を行い、その後も江戸の本草学関係の資料調査をして、それを論文にまとめるのにかなりの時間を費やすことになった(Archives Internationales d'Histoire des Sciencesに2006年末に掲載予定)。したがって、微生物関係の仕事はやや手薄にならざるを得なかった。微生物学全般についてはかなり知識を蓄積したものの、進化論の文脈となるとかなり特殊で、資料は相当な調査にもかかわらずまだ十分とは言えない状況である。微生物関係の名著ということで、昨年度はG.ギーソン『パストゥール』を読んだが、今年度は科研費とは別件でパリのパストゥール研究所を訪問することができ、当時の多くの資料を見ることができた。時代的には重なっていても、進化論と微生物学とを重ね合わせて考えることには、かなり無理があることが理解できた。今日でも進化論の話題で人々の関心を捉えるのは、恐竜の時代だったりするのであるから。 昨年度の継続としてフェルディナンド・コーンの文献を調査した。微生物学というとすぐに伝染病をイメージするのであるが、この時代には農業生産と関係して植物にもたらされる病気について大きな関心が抱かれていたことが分かってきた。世紀半ばにイギリスに生まれたヘンリー・マーシャル・ウォードはコーンとは四半世紀のずれがあるが、やはり植物の病理研究で有名である。ちなみにカール・フォン・ネーゲリも、基本的には植物学者である。 微生物と進化論に関係を正面から取り扱った論文がないので、少し研究の間口を広げて、植物の病気に関係するバクテリアやカビの研究も取り上げながら、人々の進化論的思考方法を探っていきたい。
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