研究課題
基盤研究(C)
本研究は進化論と微生物学がどのような関わりをもって考えられてきたかを、19世紀後半において考察してみようという意図の下に企てられたものである。最初の2年間は、どのような資料が存在するのかもほとんど判らず、昨年度は微生物の範囲をもう少し広げて、19世紀に熱心に研究されるようになった植物の種々の病気の原因となるカビの研究に関連した文献を読んだりした。ジャガイモのベト病やコーヒーのサビ病など多くの研究がなされたのはこの時代だったからである。しかし、研究後半になって、イギリスの微生物学者の中に微生物の種を固定したものとは考えない人物が少なからず存在したことが明らかになってきて、大変興味深く研究を進めることができた。それというのも、従来微生物の種については、コーンやコッホが種特異性を支持し、ミュンヘンのネーゲリとブフナーが種の変異性を支持するという図式に限られてきて、イギリス国内の微生物学者の立場については余り知られてこなかったからである。イギリスの衛生学者のうちに、ミュンヘンのペテンコーフェルの学説に賛同するものが少なくなかったのと全く平行するかのように、微生物学においても、ベルリンのコッホに対抗して、ミュンヘンのネーゲリらの種の変異性を支持するものが少なからず存在したのである。ドイツ国内のベルリンとミュンヘンという対立軸は、衛生学だけでなく微生物学においても明確である。そうした状況の中でも、フェルディナンド・コーンのように微生物の種特異性を強調しながらもチャールズ・ダーウィンときわめて強い絆で結ばれた研究者も存在し、イギリスにおいても、ウィリアム・ロバーツのようにダーウィンと手紙の交換をする微生物学者も存在するのである。自然発生説にどのように対処すべきかがまだ重大問題であったときに、微生物の進化を考察するには少なからぬ困難があったと思われるのである。
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