1.文献の解読 本年度は、明治日本における一次文献の収集と解読に多くの時間を費やした。American Board of Commissioners for Foreign Missionsの明治期日本における関係資料の中から、(1)書簡:医師ペリーJohn Cutting Berry、看護師リチャーズMelinda Ann Judson RichardsならびにスミスIda Victoria Smith宛のアメリカン・ボード幹事クラークNathaniel George Clark書簡1883年〜1893年)を整理し、タイプ起こし(書簡が手書きのため)と全訳を行ない、(2)Woman's Board発行"Life and Light"の1872年から1890年を通読した。昨年度ならびに今年度の研究成果として、2回の学会発表を行った。京都医学史研究会・日本医史学会関西支部合同総会(2005.6.京都大学)演題「来日医療宣教師(Medical Missionary)のみた明治中期の日本の医療-明治16(1883)年Proceedings of the Osaka Conferenceから-」、ならびに、日本医史学会関西支部総会(2005.11.大阪市立大学)演題「京都看病婦学校アイダ・スミス(Ida Victoria Smith)に関する記録」である。(論文については研究発表欄) 上記文献には、明治日本において政府によって企図され形成されていく「制度的医学」とは異なる近代的な医療・保健・福祉活動が示されている。日本の近代とアメリカン・ボードが日本で育てようとしていた「近代」を相対化することによって、近代的な活動がその目的ゆえにもつ社会機能と、近代の知と技によって構築されていく社会的要素について熟考しうる素地となる(この論点については投稿準備中の論文有り)。また、同時期、民衆のなかに存在した医療・保健・福祉ともいえる癒しの在り方として、京都平等寺に保存される一次資料とその原点である鳥取におけるお薬師信仰の一次ならびに二次資料の解読を始めた。上記の近代性と相対化していきたいと考えている。 2.フィールドワーク 明治京都における民衆の薬師信仰とその原点である鳥取におけるお薬師信仰を注目し、京都平等寺因幡薬師住職への聞き取り調査、鳥取県立公文書館ならびに関係遺跡の調査者への聞き取り調査を開始した。京都平等寺保存資料を合わせると、民衆のなかで培われていた医療・保健・福祉の文化を垣間見ることができる。 1と2から、明治近代のコスモロジーという枠組みの中で形成・構築あるいは指向された医療・保健・福祉のアイデンティティを民衆文化や政策、そして外国文化との接触という点から、検討を重ねたい。
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