研究課題
正倉院宝庫や桐箱の例を引くまでもなく、わが国では古くから文化財の保存・保管用に木材を利用してきた。戦後、コンクリート造の収蔵庫が登場してからは、その内装用に輸入材であるベイスギが多用されている。近年、このベイスギから放散される揮発性有機化合物(VOC)が収蔵庫環境を酸性化させ、文化財材質への影響が懸念されている。そこで本研究では、1)ベイスギを始め文化財環境で使用される木材(キリ、スギ、スプルースなど)に注目し、それらのVOC成分と量をガスクロマトグラフ・質量分析法(GC/MS)により検討した。また、2)これらVOCやその成分が文化財材質(顔料や金属)へ影響するのか否か、について密閉容器を用いた加速促進試験にて観測した。さらに、3)木材のもつ吸放湿性を文化財の保存に安全に利用するため有害VOCの除去方法を検討した。この結果、1)ベイスギでは蟻酸、酢酸やヒノキチオール、ネズコンなどのトロポロン類、アルデヒド類などのVOCを検出し、これらが収蔵庫大気の酸性化の原因となっており、ベイスギによる収蔵庫内装は文化財への大きな危険があることを指摘した。一方、キリやスギでは、ベイスギより量的に少ないものの酢酸が検出され、文化財材質への影響が懸念された。また低湿度に比べ高湿度下で放散が促進されることもわかった。2)各種木材、および1)で検出されたVOCの試薬を用いて、密閉容器中で顔料、金属への影響を観測したところ、木材からの揮発成分が密陀僧や鉛白、緑青などの顔料で、あるいは銅板や鉄板でこれら材質を変質させることがわかった。現在、これらの因果関係について試薬を用いた実験などで確認している最中である。3)木材からの有害VOCの除去のため、木材の溶媒(水、エタノール)抽出を検討した。その結果、ベイスギの有害成分はエタノール抽出によって相当量除去可能であり、処理ベイスギ材は文化財材質へ影響を与えないことを確認した。
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Journal of Wood Science (未定)(受理済み)
文化財保存修復学会第26回大会研究発表要旨集
ページ: 114-115
ページ: 116-117
ページ: 20-21