研究課題/領域番号 |
16500638
|
研究機関 | 東北芸術工科大学 |
研究代表者 |
松田 泰典 東北芸術工科大学, 芸術学部, 教授 (70254836)
|
研究分担者 |
松井 敏也 筑波大学, 大学院・世界遺産専攻, 専任講師 (60306074)
張 大石 芸術大学, 助手 (90364447)
栗本 康司 秋田県立大学, 木材高度加工研究所, 助教授 (60279510)
|
キーワード | 文化財 / 揮発性有機化合物 / 収蔵庫 / 保存箱 / 保存環境 / 木材 / 顔料 / 金属 |
研究概要 |
わが国では、奈良時代から美術品などの貴重な文化財には木材による収蔵施設や収納箱が使われ、文化財の保存や保管がなされてきている。戦後、コンクリート造の耐火収蔵庫が登場してからは、その内装用に輸入材であるヒノキ科の「ベイスギ」が多用されてきた。近年、このベイスギから放散される揮発性有機化合物(VOC)が収蔵庫環境を酸性化させ、文化財材質への影響が懸念されてきた。そこで本研究では、昨年度に引き続き、1)ベイスギを始め文化財環境で使用される木材(キリ、スギ、スプルースなど)に注目し、それらのVOC成分と量をガスクロマトグラフ・質量分析法により検討した。また、2)これらVOCやその単一成分が顔料や金属へ影響するのか否か、そのメカニズムについて、ガラス製密閉容器を用いたODDY TEST(加速促進試験)にて観測した。さらに今年度は、3)全国の文化財収蔵施設(524館)へのアンケート調査をおこない、収蔵庫の一般的内容、収蔵庫内装材・棚材の材質、収蔵環境の定期的調査などについて回答を求めた。 1)ベイスギからは酢酸のほか、ヒノキチオール、γ-ツヤプリシン、ネズコンなどのトロポロン類やフェノールを検出した。他の木材からの量は少ないが、同様のVOCの放散を確認した。 2)昨年度の結果を受けて、今年度は、鉄、銅、銀の金属片、鉛白、密陀僧、鉛丹、胡粉、水銀朱、弁柄、緑青の顔料、について調査したところ、ベイスギでは鉄、銅で錆を確認し、鉛白、密陀僧で変色を観察した。他の木材でも鉄、銅、密陀僧では変化を認めた。 3)アンケートは、234館からの回答を受けている(3月末現在)。収蔵庫の内装材は木材の利用が7割を占めており、また木材の中では、スギが4割、ベイスギが14%であった。棚も木材が多く使われ、空調は完備している館が6割を超えた。しかし、温湿度が安定しないなど保存環境に自信がもてないとの答えた館が多く、また環境への問題意識にも温度差が感じられた。
|