研究課題
質量数32と34のイオウ同位体比を分析し、弥生時代〜古墳時代にかけた遺跡出土朱の産地推定を行った。本研究では以下の点が問題となっていた。(1)イオウ同位体比に産地別の違いがあるか。(2)古代産地と現在の産地でイオウ同位体比は同じか。(3)微量朱の分析は可能か。(4)人造朱はなかったのか。昨年度、イオウ同位体比が中国産朱と日本産朱で全く異なる値を示すことを明らかにした。しかし古代日本の朱産地は文献的な考察からある程度明らかであったのに対し、中国産地は辰砂の名前由来の貴州省満山特区産であると推察するに留まっていた。今回、中国文献を洗い直し、陝西省鉱山が貴州省より古いこと、またその値が+8‰と貴州省産(+20‰)と異なり、しかも弥生後期の日本海沿岸王墓(北九州、出雲、因幡、丹後)より出土した朱の値と酷似していることを明らかにした。また、日本産朱も三重県丹生鉱山産と奈良県大和水銀鉱山産で異なり、加えて一つの鉱脈では地中深くから採取した朱と地上付近の朱で値に違いがないことを確かめ、現在の鉱山鉱石の分析結果は露頭堀りしていたと思われる古代産地の値を反映していることを明らかにできた。以上より、産地と遺跡出土朱のイオウ同位体比分析を行うことにより、遺跡朱の産地推定が可能であることを証明できた。つぎに朱イオウ同位体比の微量分析を検討した。王墓と考えられる遺跡以外の遺跡出土朱は微量である場合が多い。また縄文時代には土器の彩色に朱が用いられており、本研究結果は日本全国の縄文土器の物流を調べる一助となりうる。そこで微量分析を試みた結果、従来数10mg必要であったのに対し、およそ2mg以上の朱であれば信頼できる値を得ることができた。最後に人造朱の混入が遺跡朱で行われた可能性について検討した。現在の人造朱を日本3社、中国1社より取り寄せ、硫化水銀標準試薬とともに検討した。昨年度、水銀同位体の違いを検討した。今回、混在金属含量の比較と微細構造の比較を主に行った。その結果、湿式と乾式製造法の違いはわからなかった。朱色の違いは金属(たとえばカドミウム)を混和して作製していた。微量混在金属量が極端に少なく、また均一な粒子径が認められた。以上、古代の人造朱が入手できなかったが、遺跡出土朱の人造朱か天然朱の判別は可能であると考える。
すべて 2005
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Geoarchaeology : An International Journal Vol.20, No.1
ページ: 79-84