研究概要 |
地形や地表被覆と気候変動との関係については、アジア中央部の天山山脈とその周辺のジュンガル盆地とトルファン盆地において、既存のものに比較して高精度に人工衛星データから地形の標高情報を抽出するアルゴリズムを新たに開発し、これを実際に適用して長期的な気候変動の指標となりうる乾燥地域内の湖沼周辺の微地形(湖岸段丘)を詳細に抽出することができた。我が国が打ち上げて来年度より利用可能な最新の人工衛星ALOSデータを用いることでさらに高精度な分析が可能であることを確かめることができた。またアジア東部においては、長江中下流域で気候変動の影響と考えられる洪水の発生域と地形分布との関係を明らかにすることができ、長江河口部で堆積に伴う著しい海岸線拡大の時系列的な過程を明瞭に捉えることができた。 広域水循環に関しては、アジア中東部地域を対象に,メコン川流域における水収支の長期変動について解析した結果,以下の諸点が明らかとなった。(1)年流出量は,1960年代に増加する一時期が出現したがその後減少に転じ,とくに1970年代後半以降は減少傾向が顕著である。(2)年降水量,年流出量,および両要素の差に関する変動率は1980年以降負の値をとることが認められた。(3)近年における流域降水量の減少は,河口部における堆砂量の減少と海岸侵食の増大に結びついていると考えられ,次年度の検討課題とした。 アジアにおける気候システムとしては,冬季において,モンスーン・インデックス(MOI),低気圧活動の関係,北極振動(AO)・北太平洋数十年周期振動(PDO)について解析し,AO・PDOとも負のときMOIが発達しやすいことなどを導き出した。春季については,オゾン層破壊の寒冷渦など気候系への影響,夏季については,冷夏・暑夏,大雨・干ばつの出現機構について調べ,2003年の冷夏の構造などを解明した。秋季については,前線活動を中心に,台風を含む雲系ダイヤグラムを作成し,その時系列的・地域的な変動特性について新知見を得た。
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