本研究は、山地草地の尾根・谷を対象に、その微地形ごとの土壌水分の変動と、水質の形成機構を水文地形学的に解明し、流域下流の窒素汚染の防止に役立てることを目的とする。試験流域には、長野県東部火山山麓に位置し、土壌は黒ボク土で構成され、草地は放牧利用されている流域を選定した。土壌水分の状態は、テンショメータを用いて深さ別に毛管ポテンシャルを測定した。土壌水はポーラスカップ法により採取し、水質成分を測定した。 その結果、降雨後の土壌水分は、尾根では表層20cm深までの水分上昇が大きいのに対し、下層の水分変動が小さく、水理水頭勾配が、20cm深と50cm深との間で小さくなる。尾根では、土壌表層20〜40cmの透水性が比較的良好で毛管および重力孔隙に富むことから、雨水が下方浸透後に谷にむかって側方移動すると判断された。谷では、谷の下流方向に水理ポテンシャルが増加し、100cm深までの全層にわたり透水性が高く、重力孔隙に富むことから、周囲からの雨水の集合と深部への浸透が推定された。 土壌水に含まれる水質成分の濃度は、窒素、カルシウムおよびマグネシウムが類似の変動パターンを示した。尾根では硝酸態窒素濃度が1mg/Lよりも低く、谷部では数mg/Lよりも高く、谷の下流方向に施肥部で硝酸態窒素の濃度が増加するが、無施肥部では下流方向に濃度が低下した。土壌水のpHは、無施肥部では下流方向に上昇することから、土壌中の硝酸態窒素が脱窒などにより減少することが推定された。 以上から、尾根では土壌水が側方移動するため、100cm深の硝酸態窒素濃度が小さくなり、移動経路による濃度差がおおきいことが判明した。谷の施肥部では、流域内の雨水の集合に伴い濃度が高まるが、無施肥部では硝酸イオンの脱窒などにより濃度が減少し、浄化機能の発揮が推定され、それにあわせて他のイオンが変動すると判断された。
|