研究概要 |
湖底堆積働は,過去における流域の変動や湖内で生息した生物などの気候変動に絡む物理,化学,生物的変動の記録を化石として記録している。本研究は,化学情報,特に化学化石の1つである地殻物質,天然放射性元素ウラン(U)・トリウム(Th)に着目し,それらの同位体測定を実施して,周辺の古環境とそれらの堆積挙動との関連の基礎研究を行う。具体釣には,堆積物について,土壌粒子として湖内に流入し堆積した外来性U(降水量,流壌土地利用の変遷)と湖内での溶存Uが吸着・付着して堆積した自生性U(湖水気温の変動-プランクトンの増殖)に識別し,それらの変動を解析する 今年度は,先ずUの堆積挙動を明らかにする目的で以下のことを実施した。 (1)琵琶湖で先ずセジメント・トラップを設置した。 安曇川沖の深さ100mの地点で,表層から約35mと80kmの深さ地点にトラップを置き1ヶ月間隔で沈降物質を採取した。現在,試料は凍結乾燥し,非破壊で放射性物質を測定した。同時に,湖水も採取した。平成17年9月頃まで試料採取を継続する予定であり,全試料収集後,Uの存在状態研究を中心にUの沈降・堆積メカニズム解明する。 (2)琵琶湖と平衡して,中央アジアに存在するバイカル湖の湖底堆積物の研究も実施した。 近世のUの堆積挙動を解析する目的で,昨年度採取した長さ60cmのコアーについて,逐次化学抽出法を用いてU, Thの存在状態と堆積物の粒度分布,有機物含有量,Biogenic-SiO_2含有量,鉱物量などとの相互関係を検討した。その結果,堆積物中の自生性Uの変動が,湖内での生物生産(プランクトン)と関連していることが分かり,気候変動解析に有用であることが示唆された。 さらに,バイカル湖の最深部で採取した約10m長さコアーについて,共同研究者の柏谷等が測定したBiogenic-SiO_2含有量の変動とU含有量との変動がよく相関することを再確認した。逐次化学抽出法を用いて,Biogenic-SiO_2フラクションを分画し,そのU含量を測定したが,含まれるU量は極めて少ないことが判明した。間氷期(Biogenic-SiO_2フラクションが多い)と氷期(Biogenic-SiO_2フラクションが少ない)とでU-234/U-238比が大きく異なり,その原因,さらに堆積年代測定法への応用を検討している。
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