研究概要 |
湖底堆積物は、過去における流域の変動や湖内での生物生産に絡む物理、化学、生物的変動の記録を化石として保存している。本研究では、天然放射性のウラン(U)・トリウム(Th)に着目し、それらの同位体測定を実施して、堆積挙動から周辺の古環境解明への基礎検討を行なった。Uは、集水域の砕屑物と湖内の懸濁物などに溶存Uが吸着して堆積物に移行する。一方、Thはその殆どが砕屑物由来である。それ故、Uについての2成分は、気侯変動(環境変動)によってその割合が変化することが予想でき、詳細に検討することで気候変動の指標になりうると考えられる。今年度は、バイカル湖の中央で採取した長さ12m(約25万年をカバー)のコアー試料についてU、Th同位体を他の堆積物パラメーター(粒径、組成など)と共に測定し、以下のことが明らかにした。 (1)U濃度の深度分布は氷期、間氷期の指標であるBio-Siの変動と相関し、湿潤で暖か時期に濃度が高く、この時期の指標になりうることを見い出した。 (2)Thは、Uと比べて変動が少なく、集水域から流入する砕屑物量の変動の指標として有効であるが分かった。 (3)湖底堆積物のUについて吸着成分と砕屑物由来のUを識別することが、環境変動解析に非常に有効である事を見いだし、さらに吸着成分のU-234/U-238比より堆積速度、約4cm/kyを推定した。 (4)また、Th-230/U-238(Th-230/U-234)比による堆積年代測定法も検討した。この方法は、炭酸塩やサンゴなど、取り込み後のUの閉鎖系が成り立ち、かつThを初期に取り込まない試料に最適であるが、堆積物にもある仮定のもとで適用可能であることが示唆された。 (5)全体として、U,Th濃度およびそれらの放射能比の変動は、バイカル湖の気候変動解析の一つの有効な指標になりうることを示した。
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