琵琶湖および流入河川である天野川(滋賀県米原市)において水試料を採取・凍結保存し、サリチルアルドキシムを競争配位子とする吸着濃縮ボルタンメトリー法を用いて、銅に対する配位子濃度と安定度定数を見積もった。琵琶湖については2004年6月、10月の表水層(5m)と深水層(30m)採取試料を、天野川では同年9月中流および支流(丹生川)採取試料をもちいた。 1:1錯体形成を仮定した場合の安定度定数は10^<14>〜10^<16>で、配位子濃度は80-300nmol/lと、他の湖沼と比較して高濃度であった。河川試料については、いずれも安定度定数が低く、配位子濃度が高かった。前年度に報告したように、天野川におけるCOD値と溶存全銅濃度の間に有意な相関を認めたことから、主として配位子は腐植物質由来であると考えられる。 琵琶湖試料のうち、6月の表水層試料は、安定度定数10^<16>と非常に高く、このときの銅水和イオン(Free ion)濃度は10^<-17>mol/l程度と見積もられた。一次生産の盛んな時期であり、自生性の有機物が、銅のスペシエーションに影響していることが示唆された。他の試料についても銅水和イオン濃度は10^<16>mol/l程度であり、一次生産の制限因子となる境界域の濃度であることが明らかになった。 また、一方深水層試料について安定度定数は6月、10月とも同じ数値かつ近い濃度を示したことから、自生した配位子は比較的速やかに分解され、いわゆる腐植様の配位子が残されている可能性が示された。
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