研究概要 |
干潟,特に河口干潟においては,河川よりもたらされる負荷有機物に対し,干潟土壌に生息する微生物による無機栄養塩変換反応が活発になされており,この代謝活性は海域の生物生態系において極めて重要な反応である事が広く知られている。したがって,河口干潟土壌の微生物代謝活性を精査に把握することは,干潟の生態的環境を検討する上で基本的に重要な情報に繋がることが期待される。 本研究は,以上の視点を踏まえ,河口干潟により採取した土壌を用い、酵素活性の変動を解析する室内実験を中心に行われた。その結果,タンパク質,及び脂質が干潟土壌に負荷されることによって土壌フォスファターゼ活性の著しい活性増加が誘導され,さらにこの増加は,好気的環境下においてのみもたらされることを明らかにすることができた。さらに,無機リン酸の土壌への負荷が,土壌フォスフォターゼ活性の低下を導くことが明らかになった。このことは干潟における過剰なリン酸提供が干潟土壌によって抑制されることにも繋がり,リン酸濃度に関する緩衝作用を干潟自身が有することを示唆していると解釈することができる。さらに銅イオンやアルミニウムイオン(1-5mM)の存在が,フォスファターゼ活性に有意な低下をもたらすことを見出した。 以上の結果は,海洋水産生物の生態的基盤となる植物プランクトンの成長にとって必須な干潟微生物のリン酸栄養塩提供という機能が,河川より負荷される有機物質や無機リン、重金属によって大きく変動することを明らかにしたものであり,海洋生態系の基盤形成を考える上で、重要な情報提供になるものと思われる。
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