研究概要 |
申請課題に基づき,平成18年度は,平成17年度に成功した干潟土壌に含まれるタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の電気泳動的分離・分析方法の応用について取り組んだ。具体的には,広島県竹原市を貫流する賀茂川の河口干潟を対象に,土壌プロテアーゼ種の平面的な分布,及び表層から下層土壌も含めたプロテアーゼの3次元的な分布調査を行った。併せてアオサ,コアマモ,アマモについてGPSによる計測を行い,プロテアーゼ分布と食相との相関について考察を行った。その結果下記の興味ある事実が明らかになった。 1.賀茂川河口干潟におけるプロテアーゼ種の分布パターンは,4つのタイプに分類される。 2.植相の分布及び冠水の程度などを反映し,プロテアーゼ分布パターンが異なることが明らかになった。すなわち河口部分の常時冠水されている地点には,分子量の大きなプロテアーゼ種がほとんど存在しない一方,低分子の単一プロテアーゼの存在が示された。 3.アオサが密集し,ATPバイオマスの高い地点には多種類の活性の高いプロテアーゼの存在が観察された。 4.表層土壌において活性の高い多種のプロテアーゼが分布していることが明らかになった。一方,地下30cm以下には,分子量の低い単一なプロテアーゼが存在することが示された。 こうした分布パターンに併せて,ハクセンシオマネキの消化産物である砂団子中に,特異的なプロテアーゼが存在することが示された。 以上の結果は,土壌プロテアーゼの存在が,生態的環境と密接に連携していることを示しており,プロテアーゼの分布パターンが,干潟の生態的環境評価の有効な指標となることが強く示唆された。今後は全国の干潟を対象に,プロテアーゼパターンの普遍的な特性を探る方向へ発展させていきたいと考えている。
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