熱帯アジア沿岸では、経済のグローバル化にともない、エビ養殖池・リゾート開発が沿岸生態系を荒廃させ、地域住民の生活基盤を根底から揺り動かしている。しかし、こうした厳しい状況の中で、零細漁業を生業とする沿岸住民の共同体組織が植林・環境教育をとおして自律的な資源管理を目指している事例が散見される。70年代から強力に進められてきた中央集権的資源管理の失敗と、小規模ながら地域共同体に基づく沿岸資源管理(CBCRM)の成功の経験から、地域共同体が母体となって風土や伝統に根ざした技術や知識を生かす方法が熱帯アジアの沿岸資源管理には最適であると認識が高まった結果とも考えられる。 本研究は、日本および東南アジアの沿岸地域における零細漁民や養殖生産者の事例調査から、地域共同体による沿岸資源管理を実現するための条件と課題を自然・社会環境両面から明らかにし、その後、地理情報システム(GIS)を用いたCBCRM支援システムを開発することを目的とする。2004年7月には北海道・厚岸の青年漁業者たちが始めた植樹活動を、他セクターを巻き込むことによって造林事業へと発展させることができた背景について調査を行った。また、7月、11月には、熱帯アジア沿岸における漁業者と商人の関係が、昭和初期の北海道ときわめて類似していることから、昭和初期に北海道漁業者がどのように仕込み制度から漁業組合による共同販売を実施し仕込制度から脱却することができたのかについて文献および聞き取り調査をおこなった。2005年2〜3月にはマレーシア共和国ペナン州の零細漁民による沿岸環境保全について調査を行った。ペナンでは1990年代中頃以降、国際市場の高値を背景として工業的エビ養殖池が建設・拡大された過程でマングローブが皆伐された。危機感を強めた零細漁民たちは毎年、マングローブ植林を行っている。かれらがどのように組織を結成・運営し、資源管理、漁場保全活動をおこなっているのかについて調査した。
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