本研究の目的は、事例調査から、地域共同体による沿岸資源管理(Community-Based Coastal Resource Management : CBCRM)を実現するための条件と課題を、自然・社会環境両面から明らかにすることである。 今年度は、とくに日本の地域共同体による沿岸資源管理について事例調査をおこなった。 2005年7月・11月には、北海道・厚岸町において、1980年代のカキ斃死をきっかけに青年漁業者たちが得た植樹活動の構想を、厚岸町が分収林条例を制定して制度的に支援し、さらに、漁業系統組織等へ波及した経緯、また、首都圏で活動する有機食品事業体・市民団体が活動と生産物販売の両面において支援していく過程について、聞き取り調査をおこなった。 また、同年7月には、熱帯アジア沿岸における漁業者と商人の仕込み関係が、戦前・戦後間もない頃の北海道と類似していることから、戦後まもない北海道で、漁民がどのように経済的自律を果たすために漁業協同組合における貯蓄事業を開始したのかについて、直接関与した方々から聞き取り調査をおこなった。 同年8月には、高知県四万十市にて、無投薬養殖を営む養鰻業者とそれを扱う有機食品事業体について聞き取り調査をおこなった。 2006年3月には、愛媛県で無農薬みかん栽培から始まった農業法人が真珠養殖業者やちりめん漁業者を含めて、海と山をひとつの環境系として保全型生産をおこなうとりくみについて調査をおこなった。 上記事例調査の結果、CBCRMが発展する条件のひとつとして、環境保全的生産を営むことによって付加価値を高め水産物のグリーン購入を通して利益がもたらされるような、環境保全型生産が報われる制度の確立の必要性を認識した。
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