1.新潟県北部のスギ林において、同一斜面の異なる位置で林内雨と樹幹流を観測し、林内への無機成分の沈着量と斜面位置、気象要因との関係を解析した。林内雨+樹幹流による無機成分の総沈着量は、斜面上部・中部・下部では降雨によるものに比べてそれぞれ2.35、2.40、1.70倍になっていた。海塩に由来する成分を主にほとんどの無機成分において斜面上部では下部よりも沈着量が有意に多く、風当たりの違いによる影響が大きいと推測された。最寄りのアメダスにおける平均風速は、調査地での降水量よりもK^+と窒素化合物を除く無機成分の沈着量とより有意な正の相関を示した。そのような傾向は、とくに海塩に由来する成分で、さらに斜面の上部ほど強かった。 2.淋内雨+樹幹流によるNH_4^+とK^+の沈着量には樹冠表面との相互作用の影響が大きいと考えられた。スギ葉面における水滴の接触角は葉の加齢に伴って減少し、葉面濡れ性が葉齢とともに増大することを示していた。林内雨のK^+濃度は1年生葉の接触角と有意な負の相関を、NH_4^+濃度は有意な正の相関を示した。また、林内雨によるNH_4^++とNO_3^-の純沈着量は接触角と正の相関を示した。この結果から、葉面濡れ性の増大は樹冠でのK^+の溶脱と窒素化合物の吸収を促進すると考えられた。 3.隣接する常緑性のスギ林と落葉広葉樹二次林の流域間で渓流水質の比較を行った。本調査地の渓流水は、おもに海塩に由来すると考えられる高濃度のCl^-とNa^+が特徴的だった。本調査地のような温暖積雪地においても、2月下旬から3月中旬にかけて気温が低く降雪の多い天候が続いたのちに好天になった場合、アシッドショックの起こることが明らかになった。そのような現象はスギ人工林よりも落葉広葉樹二次林の流域においてより顕著に発生しており、異なる森林タイプ間での融雪パターンの違いによるものと考えられた。
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