本年度は、欧州の化学物質管理政策がどのように展開されているのか現地ヒアリング調査、および資料収集を行った(オランダ、EU、ドイツ、スウェーデン、デンマーク、英国)。日本では、物質ごとの対策に重点がおかれている中、欧州では「持続可能な開発」という概念のもとで、化学物質の総合的対策が実施されていることが判明した。施設からの化学物質の排出に関しては、「総合的汚染コントロール」(Integrated Pollution Control)許可制度がEU全体で導入され、環境媒体ごとのアプローチから総合的環境負荷低減へのアプローチへと変化してきている。この許可条件を考慮する際に、BAT(もっとも経済的で効率性の良い技術)の導入が求められ、このBAT概念を導入することによって、従来の物質ごとに規制値を定めるアプローチでは困難だった予防原則(Precautionaly Principal)の実施が可能になった。また、オランダでは独自の取り組みとして化学物質削減、情報提供に関して、企業と行政との「自主協定」手法が活用されている。「自主協定手法」はわが国でも、自治体が活用してきた手法であるがオランダでは「自主協定」締結に際して、削減目標値達成のための環境管理計画策定、環境報告書の策定・公表を義務付けている。これにより、国家環境政策と連動することと、国民への情報提供およびリスクコミュニケーションが可能とされている。さらに、現在、EUでは化学物質の総合的管理を目指して、化学物質情報提供の責任を行政から企業へと転換させるための施策REACHが検討されている。市場に流通している化学物質の有害性、安全性に関する情報提供責任を企業が負うことにより、より国民に化学物質情報がいきわたることになりリスクコミュニケーションが促進されることとなる。施設からの排出に関するIPCアプローチと化学物質に関するREACH施策が組み合わされた総合的化学物質管理政策が模索されている。このように、本年度は、欧州の化学物質管理施策のアプローチの動向およびそのための政策手法を分析した。
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