近年、泥炭地湿原生態系は人為的な開発により乾燥化、富栄養化などの環境変化にさらされているが、このような環境変化はそこで活動する微生物相とその多様性への影響を通じてその生態的機能、物質循環に影響を及ぼしていることが考えられる。本研究課題では、国内数ヶ所の高層湿原泥炭地において土壌微生物群集の多様性と有機物分解機能を調査、比較することにより、富栄養化、pHの上昇、乾燥化などの自然的、人為的環境の変化が土壌中の微生物群集の多様性に及ぼす影響を明らかにするとともに、生態影響指標としての微生物多様性と、生態系機能としての土壌有機物分解機能との関係およびその影響機構を明らかにすることを目的とする。 湿原環境とセルロース分解細菌相の関係を調べるために、3地域8箇所の調査地から計70株のセルロース分解細菌を単離し、その機能的多様性をBiolog systemを用いた炭素源利用性パターンの違いから解析した。その結果、 希釈平板法で測定したセルロース分解細菌数は、河川水の影響を受け、比較的富栄養な環境にあるヨシ原あるいはハンノキ林の方が、貧栄養なミズゴケ高層湿原よりも多く、その中には放線菌も多く含まれていた。 ミズゴケ高層湿原で優占していたセルロース分解細菌(S群)の炭素源利用パターンは比較的単純で、糖類、炭水化物の多くを利用できたが、利用できる有機酸、アミノ酸類は限られていた。一方、ヨシ原やハンノキ林からはS群の細菌が利用できない有機酸類、アミノ酸類なども炭素源として利用できる細菌(E群)が分離された。 環境による細菌相のこのような違いは、各環境で細菌が利用できる有機物の質的違いを反映していると思われ、また、富栄養な湿地では多様な炭素源を利用できる微生物が生息する結果、比較的分解しにくい有機物も速やかに分解されることが考えられた。
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