研究課題
Ah受容体リガンドの体内曝露による胎児の発生・発育への影響についての知見を深めるため、下記の研究を施行した。我々は、分娩時に得られた母体血、臍帯血、羊水を対象として、Ah受容体リガントであるダイオキシン類濃度(PCDD_s、PCDF_s、Co-PCB_s)を高分解能GC-MS法により測定し、母児環境の汚染状況を評価し、物質ごとの体内・胎内動態を検討した。その結果、母体血中Co-PCB_s濃度と母体年齢の間に有意な正の相関を認めた(P=0.0076)。検体総重量あたりの濃度で比較すると、母体血では、臍帯血、羊水に比べて全てのダイオキシン類濃度が有意に高かった(いずれもP<0.0001)。しかしながら脂肪重量あたりに換算すると数値は逆転し、羊水で、母体血、臍帯血に比べてPCDD_s濃度、PCDF_s濃度、総ダイオキシン類濃度が有意に高かった(いずれもP<0.0001)。PCDD_s濃度、Co-PCB_s、総ダイオキシン類濃度において、母体血・臍帯血間で有意な正の相関を認めた(それぞれP=0.0016、P<0.0001、P=0.0020)。更に、ダイオキシン類の胎内曝露により胎児・新生児の甲状腺機能に影響を及ぼす可能性が指摘されているため、臍帯血中の甲状腺ホルモン値とダイオキシン類濃度との相関を解析したところ、臍帯血中遊離トリヨードサイロニンおよび遊離サイロキシンと母体血中PCDF_s間に有意な正の相関を認めた(それぞれP=0.0066、P=0.031)。ダイオキシン類(PCDD_s、Co-PCB_s)において母体血と臍帯血中濃度に有意な母体間の相関が見られ、経胎盤的な内分泌撹乱物質移行の実態が確認された。また、羊水中脂肪性分にダイオキシン類(PCDD_s、PCDF_s)が蓄積することが明らかとなった。脂肪親和性の高いダイオキシン類は母体から胎児への脂肪酸輸送に伴って経胎盤的に胎児に移行すると考えられているが、今回の我々の報告はこれを指示するものと考えられた。また、ダイオキシン類の胎内曝露により胎児・新生児の甲状腺機能が影響を受ける可能性が示唆された。上記のダイオキシン類の解析結果を参考として、同じくAh受容体リガンドであるインディルビンの胎内曝露の影響についても測定・解析を進めている。
すべて 2004
すべて 雑誌論文 (2件)
Endocr J 51・2
ページ: 165-169
Biochem Biophys Res Commun 325・2
ページ: 549-554