研究概要 |
活性酸素、紫外線、電離放射線、塩基修飾化学物質などはDNAに様々な傷害をもたらす。このような傷害は遺伝子発現を阻害したり細胞増殖の際のDNA合成を阻害するばかりでなく、誤ったDNA合成を誘発することがある。突然変異である。正常細胞ではDNA修復機構によって変異発生は抑制されているが、修復欠損細胞では変異頻度が著しく上昇する。DNA修復機構や変異誘発機構の研究は、豊富な変異株を用いて微生物で進み、さらに標的遺伝子を導入したトランスジェニックマウスやラットを用いて動物個体でも行われている。変異の型や発生頻度を調べることは、生物の代謝特性さらに環境要因に対する応答機構を知る上で重要である。一方、太陽光を連続的に浴び活性酸素を多量に発生している植物では遺伝子レベルの傷害が多量に発生していると推測されるが、特定の遺伝子内での変異は塩基レベルではほとんど知られていない。そこで、高等植物で生じた変異を塩基配列レベルで容易に解析できる系の開発を行った。 16年度は、標的として遺伝子として大腸菌rpsL遺伝子を組み込んだタバコを開発し変異の解析を試みた。野性型rpsL遺伝子をストレプトマイシン耐性大腸菌に導入すると感受性になるが、変異型rpsL遺伝子を導入した場合はストレプトマイシン培地で生育する。変異をポジティヴセレクションできる系である。タバコは形質転換が比較的容易だが、葉が厚く色素成分などを多く含むので、DNA抽出精製が困難でアッセイ系として適当でないことが分かった。そこで、これらの問題点を解決するために17年度には新たにモデル植物のシロイヌナズナでアッセイ系を開発し直した。自家受精を繰り返してホモ形質転換体を得た。rpsL遺伝子が組み込まれていることを確認した。染色体中rpsL遺伝子の回収はPCRではなくプラスミドレスキューに切り替えた。 「結果」 自然変異ではGC->AT, GC->TA, AT->CGの塩基置換やframeshiftが見られたが、シロイヌナズナ種子をethylmethanesulfonate (EMS)で処理した場合には、ほとんど全てがGC->AT塩基置換であった。アルキル化グアニンの不適正対合が原因と考えられる。
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