研究概要 |
甲状腺がんでは、ret/PTC遺伝子再配列やBRAF遺伝子変異が知られている。放射線で損傷されたDNAは修復されるが、修復に異常が生じるとがん化へとつながる。放射線誘発甲状腺がんについて、DNA修復機構の関連に注目して検討した。 1.放射線誘発甲状腺がんとp53多型:p53蛋白はDNA修復において重要な役割をはたす。p53をコードするTP53遺伝子の変異はヒトのがんで高頻度におこる。放射線誘発の甲状腺乳頭がん116例、自然発生の甲状腺乳頭がん53例、300例以上の健常成人で、コドン72G>C多型について単塩基置換多型の頻度を比較した。この多型はp53の72領域においてアルギニン(Arg)ないしは、プロリン(Pro)を規定する。TP53遺伝子のArg/Argの発現が、放射線誘発の甲状腺がんにおいて有意に低下していた。放射線被ばくした集団では、Arg/Arg以外のTP53アレルが甲状腺乳頭がん発生に関与している可能性が示唆された。 2.放射線誘発甲状腺がんとATM多型:甲状腺乳頭がんにおいてATMの多型を検討した。ATMは、p53の構造や活性の重要な制御因子の一つである。ATM IVS38-8 T>C, IVS38-15 G>C, G5557AとA5558Tについて約40%の解析を終了した。 3.放射線誘発甲状腺がんとMDM2多型:MDM2は、ATMと同様にp53の流れにおいて重要な役割を果たす。MDM2プロモーターSNP309 T>Gについて約40%の検討を終了した。 4.甲状腺がんcell lineでのDNA-PK活性:DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)はDNA二本鎖切断の修復に重要である。ヒト甲状腺癌細胞でその活性を測定した。初代培養細胞、TPC-1及びKTC-1でDNA-PK活性が低く、ARO, FRO, WRO, NPA, KTC-2はDNA-PK活性が高かった。p53が正常の細胞は活性が低い傾向が見られた。
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