研究概要 |
前年度の研究を発展させ、胎盤・母乳暴露経由でダイオキシン(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin : TCDD)を摂取することにより鬱症状を発症したマウス産子に他の鬱発症リスク(隔離ストレス)を与え、その影響を調べる目的で以下の実験を行った。雌マウスに数週間にわたりTCDDを胃内に直接投与し、体内に蓄積させたあと(投与総量は2000ng/kgと20ng/kgの2群を作製)、正常雄マウスと交配して産子を得た。産子は胎盤と母乳を介してTCDD暴露を受け、これにより脳にモノアミン異常が現れ、行動異常が現れたが(Kuchiiwa et al.,Neurosci.Lett.,2002)、これは鬱様症状と判断された(口岩ら、2006、解剖学会九州支部学術集会)。この産子を離乳直後から隔離飼育を行い、TCDDによる薬物ストレスに加え、隔離ストレスを追加した(TCDD・隔離重複ストレス群)。この重複ストレス群を対照群の隔離単独ストレス群と比較し、追加された隔離ストレスリスクの影響を調べた。高速液クロマトグラフィー法を用いて脳内のモノアミン含量を計測したところ、TCDD・隔離二重ストレス群では、セロトニンとドパミンに対する隔離ストレスの影響は現れなかったが、ノルエピネフリンは有意に高いことが明らかになった。二重ストレス群では、運動機能に対する影響は見られなかったが、ソーシャルインターアクション試験における接触回数の減少が認められた。以上の結果から、TCDDによる鬱発症動物に対する隔離ストレスは、さらなるモノアミン異常を来し、またさらなる異常行動を惹起することが示唆された。隔離ストレスマウスとTCDD暴露マウスは共通の異常行動を発現するが、複数の鬱発症リスクを与えることにより鬱症状は多様化する可能性が考えられた。
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