研究概要 |
多環芳香族炭化水素(PAHs)と紫外線の複合作用が、発がんに関連する最も重篤なDNA損傷の一つであるDNA二本鎖切断(DSBs)を引き起すことを昨年までの本研究により明らかにしてきた。放射線や抗がん剤によって細胞内にDSBsが誘導された際の細胞応答として、その近傍のヒストンH2AXが速やかにリン酸化(γ-H2AX)されることが知られている。本年度は、PAHsとUVAの複合作用によるγ-H2AXの誘導の有無を検討するとともに、γ-H2AXを指標とした光毒性の評価系の構築、DNA修復との関連性の検討を試みた。 4つのPAHs(benzo[a]pyrene, phenanthrene, pyrene, naphthalene)について検討した。UVAとの複合作用により、benzo[a]pyrene, phenanthrene, pyreneではH2AXのリン酸化が引き起された。一方、従来の光毒性のアッセイ法(生存率およびDNA二本鎖切断の検出)ではγ-H2AXの誘導を指標にした場合の100倍以上高いPAHsを作用させなければ光毒性は検出されなかった。一方、二環のPAHsであるnaphthaleneではγ-H2AXの誘導は認められず、また、従来の光毒性のアッセイ法でも毒性を示さなかった。以上の結果から、γ-H2AXを指標として高感度に環境汚染物質の光毒性物質を検出できることが明らかになった。また、感度が高くても光毒性を示さないnaphthaleneのような化合物には誘導が見られないことは、本法が新規評価系となりうる可能性を示唆していた。また、DNA修復とH2AXのリン酸化には相関が認められ、PAHsと紫外線の複合作用においてH2AXのリン酸化が引き起されることが皮膚がんの抑制などに重要な過程であることが明らかになった。これまでの環境物質の評価においては、クロマチン構造変化に視点をおいた評価は少なく、また光の影響を考慮したものは皆無であり、今後、他のヒストンの修飾を指標とした新たな系を構築して行く予定である。
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