プラスチックの可塑剤に用いられるフタル酸エチルヘキシルDEHP[Di-(2-ethylhexyl)phthalate]は、内分泌撹乱作用が懸念されているが、その作用メカニズムは解明されていない。また、DEHPの代謝産物である、MEHP[Mono-ethylhexyl-phthalate]は、精巣毒性を持ち、精巣を萎縮させることが知られている。性ホルモンであるテストステロンのほとんどは、精巣のライディッヒ細胞で産生され、その後血中に放出される。その一方でセルトリ細胞の機能維持や生殖細胞の成熟と分化に関与していることが知られている。本研究では、親ラットに投与したDEHPが胎盤、母乳を通し胎児、乳児の仔ラットの臓器や生殖機能に及ぼす影響を蛋白科学的に明らかにすることを目的として行った。 16年度に行った投与実験の結果、妊娠期間の親ラットにDEHPを0.5g/kg/day投与した群から生まれた雄の仔ラットの精巣重量に減少が見られた(P<0.05)。また、DEHPを投与した群の(妊娠期間、授乳期間)雄の仔ラットの脳下垂体に増加が見られた(P<0.05)。このことから、雄の仔ラットの精巣及び下垂体に何らかの影響を及ぼしていることが推察され、両組織から可溶性蛋白を抽出し、コントロール群、妊娠期間投与群、授乳期間投与群の三者間について、二次元電気泳動によるプロテオーム解析を行った。等電点電気泳動には、pI3-10NL24cmのドライストリップを用い、二次元目には24.5×18cmの大型ゲルを用いた高解像度の解析を行った。画像解析ソフトによる解析の結果、精巣から抽出した蛋白の二次元電気泳動画像においてコントロール群に対して、それぞれの投与群の蛋白発現量に差が見られるスポットが見つかった。さらに、脳下垂体についても、二次元電気泳動による解析を行った結果、精巣と同様にコントロール群に対して、それぞれの投与群の蛋白発現量に差が見られるスポットが見つかった。これらの蛋白スポットの増減は、DEHPの投与による内分泌系への影響を反映するものと考えられ、DEHPの内分泌撹乱作用のメカニズムの解明に役立つものと思われる。
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