胎仔期および新生仔期にトリブチル錫(TBT)に被曝したラットの脳ミエリン形成に及ぼす影響を調べる研究である。胎仔期のTBT被曝の解析は16年度に終了し、ミエリン形成に影響を及ぼさないことを見いだし、新生仔期のTBT被曝の解析では、CNP発現がトリブチル錫によって抑制されることが、リアルタイムPCR(qPCR)によるmRNA解析、およびウエスタンブロットにより明らかになった。17年度の成果について記す。ミエリンは軸索と相互関係をもって、軸索内のシグナル伝達に関与している。そこで、軸索と相互関係のあるミエリンタンパク質で重要なMAGとNOGO、軸索側のNOGO受容体、さらに、シグナル伝達のメディエーターとなる糖脂質に焦点を絞って解析を行った。(1)TBT被曝ラットのMAGとPLPのmRNA発現(7週齢)がコントロールに比して有意に低下していた。一方、オリゴデンドロサイトの細胞質側に由来するMBPとCNPはTBT被曝とコントロールで差がなかった。以前に糖尿病性神経障害ラットのミエリンで観察されたのと同じ結果である。昨年度のCNPに続いて、PLP、MBP、MAGについてもウエスタンブロットで確認をした。(2)NOGOとFynのmRNA発現にはTBTは影響を及ぼさなかったが、NOGOレセプターの発現はTBT被曝で有意に抑制され、加齢とともに正常状態に近づいた。(3)8種類の糖脂質合成糖転移酵素のmRNA発現を調べた。ミエリン主要糖脂質であるセレブロシド合成酵素は変化ないが、ガングリオシドに続く糖転移酵素はTBTで抑制された。成果は、第20回国際神経化学会、第78回生化学会、第48回神経化学会で発表した。学会で指摘された項目についてのデータも補足して、投稿論文を作成中である。
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