研究概要 |
トリブチル錫(TBT)はテストステロンをエストラジオールに変換するアロマターゼ活性を抑制し、アンドロゲン様内分泌攪乱物質として認識されている。この研究の目的は、ラットが胎児期および新生児期にTBTに被曝した場合の、ミエリン(神経髄梢)形成が受ける影響を生化学的に明らかにすることである。A.胎児期の被曝 妊娠ラットにTBT投与をし、出生後21日目の仔ラット脳を採取した。脳ミクロソーム画分のP450量とオリゴデンドログリア細胞に特異的なCNP(2',3'環状ヌクレオチド3'水解酵素)活性の測定をすると、TBT投与群と対照群で差がなかった。母体がTBTに被曝しても、胎仔の神経発達に影響を及ぼさないことが示された。B.新生仔期の被曝 生後1日目のラットにTBT投与をし、3,5、7週齢に脳を採取、ミエリン画分を調製した。(1)TBT被曝ラットのミエリンCNP活性は全週齢で対照群より低く、ウエスタンブロットでも同様の結果が得られた。(2)主要ミエリンタンパクmRNA発現を測定した。CNPとPLPのmRNAが、5週齢までは対照との差がないが、7週齢で対照に比して発現が低下した。ミエリン形成期のタンパク合成過程に問題が生じることが考えられる。(3)糖脂質合成の各種糖転移酵素mRNAの発現解析を行った。GlcCer合成のグルコース転移酵素とCSE合成の硫酸基転移酵素mRNAが7週齢で対照に比して著明に低下した。脂質組成を調べると、mRNAの結果が裏付けられた。結論 胎児は胎盤によってTBTの影響を免れるが、新生児はTBTにより神経ミエリン膜の形成に障害が起こることが明らかになった。
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