研究概要 |
大気圏内核爆発実験や原子力施設の放射能漏れ事故等による汚染がなければ,地上1mにおける自然放射線は,表層大地からのガンマ線,宇宙線電離成分,宇宙線中性子成分に分離できる。本研究は,世界最高峰エベレスト周辺の自然放射線による線量率分布を明らかにすることにある。 表層大地からのガンマ線及び宇宙線電離成分の放射線測定は,放射線影響協会の岡野眞治らが研究・開発したGPS付の直径3インチ球形NaI(Tl)シンチレーション・スペクトロメータ(検出器のシンチレータ部分は応用光研(株),その他の構成要素は(株)湘南製)により,宇宙線中性子成分の放射線測定は中性子レムカウンタ(富士電機(株)製)により実施した。表層大地からのガンマ線については,全ガンマ線による線量率(μSv/h)に加え,ウラン系列,トリウム系列,カリウム-40からのガンマ線に分離し,それぞれ線量率(同)を解析・算出した。 平成16年度は,エベレストのあるクーンブ・ヒマラヤ地域のルクラ(標高2,840m)-カラパタール(同5,545m)間,平成17年度は同地域のルクラ-ゴーキョピーク(5,357m)間の自然放射線測定を実施した。 エベレスト周辺における表層大地からのウラン及びトリウムのガンマ線の強さは,日本の表層大地と比べるとかなり高かった。もちろん急性放射線障害を発症するような線量レベルと比べると桁違いに低く,健康上問題になるようなレベルというわけではまったくない。 日本の木造家屋では,木材中のウラン及びトリウム濃度が低く,かつ遮蔽能力も低いため,屋内外の放射線の線量率に大きな違いはないという報告が放射線医学研究所の阿部史朗らによりなされている。一方,エベレスト周辺の3,000〜5,000mの高所では建築材の多くは石材であり,しかもこれらの石材はウラン及びトリウム濃度が高く,かつ遮蔽能力も高いため,一般に屋内のウラン及びトリウムのガンマ線の線量率は屋外と比べるとかなり高い。また,宇宙線による線量率は屋内ではかなり遮蔽されるため,屋内より屋外の方がかなり高い。また,宇宙線電離成分及び宇宙線中性子成分の線量率はそれぞれ高度とともに指数関数的に高くなったが,地形及び建物等による遮蔽の影響を大きく受けることが明らかになった。
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