研究概要 |
肥満は、脂肪細胞数の増加や脂肪細胞容量の拡大によって引き起こされる。本年度は、ビスフェノールA(BPA)が脂肪細胞容量の拡大を引き起こすかどうかを3T3-L1細胞を用いて検討した。 1.定法通りホルモンで脂肪細胞に分化させた3T3-L1細胞を、BPA存在下で6日間培養し、中性脂肪の蓄積、リポ蛋白リパーゼ(LPL)や脂肪細胞特異的脂肪酸結合蛋白質(aP2)のmRNAの発現を調べた。中性脂肪含量はBPAの用量に依存して増加し、80μM BPAで処理すると中性脂肪含量は未処理群に比べて310%高かった。また、LPL mRNAおよびaP2 mRNAの発現量も、それぞれ293%および438%高かった。この結果から、BPAは3T3-L1細胞の脂肪細胞への終末分化を促進する能力をもっていることが明らかになった。 2.脂肪細胞への中性脂肪の蓄積はインスリンシグナル伝達系を介していることが知られているので、この伝達系で中心的な役割を果たすphosphatidylinositol 3-kinase(Pl 3-kinase)の阻害剤(LY294002)を用いて実験を行った。この阻害剤はBPAによって引き起こされる脂肪細胞への終末分化を完全に抑制した。さらにBPAは、この伝達系のPl 3-kinaseの下流で働くAkt kinaseのリン酸化を促進した。この結果から、BPAはPl 3-kinase-Akt kinase経路を介して終末分化を促進していることが明らかになった。 3.BPA関連物質を用いてその構造と終末分化促進能との関係を調べたところ、フェノール環の水酸基にエステル結合もった化合物はBPAと同レベルの終末分化促進能を有しているが、エーテル結合をもつ化合物はその能力を有していないことが明らかになった。 4.以上の結果は、Toxicological Sciences 84,319-327(2005)に発表した。
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