冠水の有無により酸化還元状態が変化する水田に着目し、アンチモンの移行挙動を模擬した室内実験及びフィールド観測による水田土壌水中アンチモンの存在形態評価を行った。 室内実験では、水田土壌試料にアンチモン溶液(Sb(III)としてSbCl_3など、Sb(V)としてKSb(OH)_6の溶液)を、土壌表面に空気が触れる程度に溶液に浸した状態(冠水無し)と、溶液が土壌の上まで覆った状態(冠水有り)の2条件で7日間接触させた後、土壌水及び上澄み中のアンチモンを定量し、土壌への吸着の分配比を求めた。またイオンクロマトグラフ装置に誘導結合プラズマ質量分析計を結合したオンライン測定系(陰イオン交換カラムとしてPRP-X100、溶離液としてフタル酸2mM-EDTA20mM(pH 4.5)を使用)により、液相中のアンチモンの価数別分離評価を行った。その結果、Sb(III)溶液を接触させた実験では、「冠水有り」に比べ「冠水無し」で分配比の低下が見られ、Sb(V)を接触させた場合と同程度の値となった。また液相中の全Sb濃度に対するSb(V)の割合は「冠水無し」の方が「冠水有り」より大きかった。これより土壌表面に冠水が無い状態では、Sb(III)のSb(V)への酸化が進むと考えられる。 フィールド観測では、2005年7月の冠水時に、茨城県常陸太田市の水田で土壌水を採取し、アンチモンの定量及び価数別分離評価を行った。その結果Sb(V)が土壌水中の全Sb濃度を押し上げている結果が得られ、Sb(V)の方がSb(III)より土壌吸着の分配比が小さいという室内実験の結果と符合していた。 本研究の結果より、水田において夏季に冠水のある状態では大気降下物由来等のアンチモンが土壌中に蓄積し、冬季に冠水のない状態となるとアンチモンの酸化が進んで土壌への吸着が小さくなり、移動性が増大する、というシナリオが想定できる。
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