本研究計画は、実験用マウス系統を用いて、3グレイ以下の低線量のX線による生殖細胞突然変異をサザン法により解析し、X線の継世代影響を定量的に明らかにしようとするものである。解析用マウスDNAは、当所の第1期中期計画において実施された低線量生体影響プロジェクトにおけるマウスゲノムDNAシークエンシング解析のために調整された試料を流用した。約500匹のマウスより抽出精製したゲノムDNA試料について、10箇所のSTSマーカー領域(130568、131443、141035、142454、144547、161305、178225、185566、186223、225927)、2種類のゲノム遺伝子領域(Aprt、Hprt)、ならびに1種類の反復配列領域(Ms-6hm)にっいて、シークエンシング解析と並行してサザンプロット解析を行った。 サザン解析の結果、STS領域ならびにゲノム遺伝子領域においては、被ばく親マウスとF1の間で検出されるバンドパターンに変化はみられなかった。一方、シークエンシング解析によりSTS領域のひとつである178225領域においては、3グレイのX線に被ばくした父親マウスに由来すると推定される塩基配列の消失が検出された。シークエンシング解析により検出された変異はサザン解析では検出できなかったものであり、シークエンシング解析による継世代影響研究の有効性が示された。なお、その他のSTS領域やゲノム遺伝子領域における変異の発生はシークエンシング解析によっても検出されなかった。 Ms-6hm超可変反復配列においては、非照射対照群では約5%のF1において、1グレイ照射群においてはF1の約7%において、3グレイ照射群において.はF1の約9%において動的突然変異が検出された。178225において欠失変異が検出されたマウス個体におけるMs-6hm超可変反復配列の変異は検出されなかったことから、超可変反復配列の高変異性を利用することにより放射線の継世代影響を鋭敏に検出できるが、必ずしもその他のゲノム領域における継世代影響の発生と相関するものではないと結論付けられた。
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