1.低エネルギー炭素イオンビームの細胞照射法の確立 核子当たり6MeVの低エネルギーのイオンビームを細胞照射するために、『研究計画・方法』項目別目的1に掲げた問題点を解決する細胞照射法を確立した。市販されている直径35mmのプラスティックディッシュに直径6.5mmの穴を電気ドリルで空け、そこに厚さが2.5μmの薄いマイラフィルムを張って培養細胞をディッシュの内側に付着させ、付着面の外側からビームを照射する方法を開発した。この方法で問題点をクリアーして照射が実行出来る事を確認した。 2.ヒト由来の正常細胞の細胞致死及び突然変異誘発効果に対するバイスタンダー効果 以下に示す細胞へのイオンビーム照射方法(a〜d)を用いて、ヒト皮膚由来正常細胞のコロニー形成法による細胞生存率及びhprt遺伝子座における突然変異誘発頻度を求め、バイスタンダー効果の誘導の有無とそのメカニズムを検証した。 a.細胞付着面全体に一定数の炭素イオンを照射 b.細胞付着面全体を照射したサンプルと非照射のサンプルを一対一で混合 c.細胞付着面の半分のみを照射 d.半分のみを照射し、同時に細胞間情報伝達阻害剤を併用 細胞致死は、aとcの照射条件でほぼ等しく、bの条件で前者より有意に高かった。また突然変異誘発頻度も、aとcの条件でほぼ等しかった。この結果は、cの条件で直接イオンビームのヒットを受けていない細胞が何等かのメカニズムによって細胞死及び突然変異を生じた事を示すものであり、バイスタンダー効果が誘導されたと考える。次に、cの条件で同時に細胞間情報伝達を遮断した場合(d)は、層細胞生存率はbの条件の場合とほぼ同レベルまで高くなることが判った。また突然変異誘発頻度は著しく抑制された。以上の結果から接触した細胞間の情報伝達が、観察された細胞致死及び突然変異誘発効果に対するバイスタンダー効果のメカニズムに重要な意味を持っていることを示唆するものである。
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