研究概要 |
本研究では浄化槽やアオコ含有湖水の上水処理装置などの生物学的水処理装置内に形成された微生物生態系における腐生食物網の構造と処理能との関係を明らかにすることを目的として研究を行った。先ず、浄化槽(13℃の条件下)の好気槽内の担体に形成された生物膜における微生物生態系中の原生動物と微小後生動物を顕微鏡下で観察し個体数計算を行った。同時に処理水の水質(BOD, SS等)について測定した。約160日間で27種の原生動物と12種の微小後生動物が確認され、各微小動物間、また水質項目と微小動物間の関係についてピアソンの相関等による統計解析を行った。その結果、有意な微小動物間の相関関係が多数推定された。また、水質との相関関係では、透視度およびSSとヒルガタワムシPhilodina. spに強い相関があることが判明した。すなわち、Philodina. spの個体数密度が高いときには、浮遊細菌などを捕食することで、SSが低下し透視度が上昇することが推定された。そこで、浄化槽からPhilodna. spとEnterobacter sp., Bacillus sp., Acinetobacter sp., pantoea sp.の4種の細菌(16SrDNAに基づく系統解析により同定)を単離し、2者培養による捕食実験を行った。その結果、Phrlodina. spは4種全ての細菌を捕食したものの、増殖速度と捕食速度が異なることわかった。中でも、Acinetobacter spが特によい植物源であることが判明した。このPhilodina. spは有毒藍藻ミクロキスティスを捕食分解することも可能であり、上水処理においても有効な種として期待された。これらの結果は、今後、水処理装置内の腐生食物網のモデル生態系(マイクロコズム)の構築と、これを用いた腐生食物網の構造と処理機能との関係の解明のための基盤的知見とすることができた。
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