研究概要 |
昨年度実施した分子性架橋としてポルフィリン金属錯体を平面状につなげた、ポルフィリン金属錯体テープの電子物性、磁性に関する予備計算結果を踏まえ、計算精度を上げて計算を行った。特に磁性に関しては、隣り合うポルフィリンユニット間の中心金属原子のスピン配置として反強磁性状態も考慮するためスーパーセルを倍に拡大して計算を実行した。その結果、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Feを中心金属としてもつポルフィリン金属錯体テープは強磁性の伝導体に、Co、Ni、Cuを中心金属としてもつポルフィリン金属錯体テープは、非磁性の絶縁体になることを見出した。対応するユニットのポルフィリン金属錯体分子において、メゾ炭素原子およびβ炭素原子付近の電荷密度が大きい分子軌道が、テープ上に繋がった場合に幅の大きなバンドを形成するためその分子軌道が、LUMO、HOMOの場合、もしくは、エネルギーが近い場合、テープ状に連なったとき伝導体となる可能性がある。今回調べた範囲では、それらの軌道は中心金属原始のdxz軌道もしくはdyz軌道が含まれることがわかり、それゆえ、伝導性が中心金属のd電子数に支配されることとなった。 一酸化炭素吸着の効果についても計算精度を上げ、中心金属がFeの場合、CO分子軸をテープ分子面に対し垂直にして安定に吸着することを見出した。吸着時には、中心金属の磁気モーメントは消失し、テープポルフィリンは、絶縁体に転移することを確認した。Fe原子のdz^2軌道とCO分子の5σ軌道が混成した結果、その反結合性軌道が非占有準位となり多数スピンの電子が一つ減る一方で、Fe原子のdxz、dyz軌道とCOのπ^*軌道が混成した結果、その結合性軌道が占有されるため少数スピンの電子が一つ増え、その結果CO吸着によりFeの局在磁気モーメントが消失した。また、先の伝導バンドを形成するdxzおよびdyz軌道を含む分子軌道はCOのπ^*軌道と強く混成し、フェルミレベルからはなれ、テープポルフィリンはCO吸着により絶縁体となることが分かった。
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