超伝導体中の準粒子は、超伝導デバイスを用いた物理研究や応用研究においてきわめて重要な役割を果たす。超伝導体中の準粒子の物理研究において、今年度、以下の成果を得た。 1.過去の電荷インバランス現象の研究は、SQUIDを用いた電流バランス法によって化学ポテンシャルの効果を測定することによって間接的に検出が行われてきた。我々は、微細加工技術を用いて、0.1ミクロン幅の超伝導細線に0.1ミクロン幅の常伝導体トンネル接合を介して接続した素子を開発し極低温で電荷インバランス現象を電圧電流測定によって明確に検出することに成功した。拡散的伝導、注入電圧依存性、準粒子有効電荷などが明確に観測され、うちいくつかのものはすでに公表されている。 2.準粒子の再結合レートは、準粒子2個が再結合するため、準粒子の濃度に依存することが期待される。これを観測することに成功した。アルミニウムの超伝導細線に超伝導量子干渉素子SQUIDの形状をした微小なジョセフソン接合を付加した素子を作製、準粒子電流総量の測定を行った。準粒子濃度を接合からの注入によっていろいろ変えたときの空間的な準粒子濃度の減少を測定し、その空間緩和長が濃度に依存することを検出した。 3.ジョセフソン接合における準粒子トンネルの効果は、抵抗体を付加したのと同等の効果になる。したがって、I-V特性に現れるヒステリシスなどの効果は、超伝導体の準粒子密度を変化させることで調節可能になると期待される。我々は、超伝導体接合の特性をMcCumber-Stewertパラメータ(β)を準粒子注入によってβ=1をまたいで調節すること成功した。これは、メモリーなどに用いられるジョセフソン接合のヒステリシスの有無を接合を作ったあとで調節できる点で画期的である。 4.準粒子にはスピン自由度があるため、スピン偏局した準粒子を超伝導体内に選択的に注入すると、スピン蓄積がおこることが期待される。超伝導体に強磁性金属トンネル接合によってスピンを注入するための素子の試料形状作製条件の導出を完了しており、現在極低温測定を行っている。
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