本研究では、当初計画に従い、初年度に主に装置の立ち上げを行い、それ以降、アルミニウム(Al)やマグネシウム(Mg)へのCOやCNの吸着システムに関した分光学的実験を試みた。その結果、いくつかの吸着システムに関し、新たなスペクトルの観測に成功した。さらに、得られたスペクトルの詳細な解析から、吸着分子の回転運動ポテンシャルに関する新たな知見を得ることができた。この成果は、今後、表面吸着分子の配向を外部操作により制御する方策に関し、重要な指針となることが期待される。 (1)実験装置 申請者は、不安定分子種を1〜20Kという極低温状態で、しかも、無衝突条件下で生成することが可能な装置を所有していたが、それはレーザー誘起ケイ光法のみ適用可能な装置であった。そこで、本研究費により、レーザーイオン化法も実施可能な装置に改良した。その結果、これまでに観測されていなかった新たな吸着分子システムの観測が可能となった。 (2)実験結果 本研究では、ケイ素(Si)クラスターの観測に関し、炭化水素燃焼過程の中間体であるCCHラジカルが吸着したSiCCHの観測に成功した。さらに、SiCNおよびSiNCというケイ素にシアノラジカル(CN)が吸着したクラスターは、吸着分子の回転運動が極めて複雑であることが判明した。一方、従来より観測経験のあったAlやMgのクラスターに関しては、実験結果から回転ポテンシャルを決定でき、このポテンシャルが表面金属より吸着分子の違いにより、著しく異なることが明らかとなった。例えば、MgにOHが吸着したクラスターでは、回転ポテンシャルが主成分が4次の非調和項であるのに対し、CNが吸着したクラスターでは、MgNC⇔MgCNの異性化反応ポテンシャル障壁が低く、回転ポテンシャルは三角関数型で良く記述されることがわかった。
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