前年度は、溶媒としてエタノールあるいはアセトニトリルを、金属触媒として硝酸ニッケルを溶媒に溶かしこみ、電気化学的手法により12テスラ(T)の強磁場中でナノカーボンの合成を行った。硝酸ニッケルの量は、Ni触媒が全て基板の両面に均等に堆積したと仮定し、その厚みが5nmとなるように決定した。ナノカーボンの合成は、比抵抗0.5Ωcmの結晶シリコン基板を陰極とし、陽極に炭素棒を使用して、電流密度0.8-5mA/cm^2(1000V)で行った。磁場中合成では基板表面が磁場の方向と平行となるように配置した。合成時間は約10時間である。その結果、磁場中で合成を行うことにより、長さの長いカーボンナノワイヤーが合成されることがあることを見出した。また、基板に堆積するカーボン量の減少が見られた。そこで、今年度はこの様な磁場による変化の再現性の確認および磁場効果を詳細に考察するために、10Tおよび12T中で、磁場を基板表面に平行あるいは垂直となるように印加し、合成を行った。金属触媒として、硝酸ニッケル、あるいは、硝酸ニッケルおよび硝酸コバルトの混合物を使用した。また、無磁場中でトルエンを使用した合成も試みた。以上のようにして合成された試料を、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)およびSEMに付置されているエネルギー分散型分光装置により評価を行った。その結果、磁場中では、切り屑のような形状のナノカーボン、および長さの長いカーボンナノワイヤーが合成され、10Tおよび12Tで顕著な差は見られなかったことから、磁場効果の再現性が確認された。また、磁場を平行に印加した場合と垂直に印加した場合の結果に顕著な差は見られなかったことから、磁場中での合成においてローレンツ力による効果は小さく、量子論的なスピン偏極に起因した効果が大きいことが示唆される。
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