本研究は、原子間力顕微鏡(以下、AFM)プローブによる液晶分子の直接配向現象を用いて、液晶分子の配向状態を直接的にかつ精密に制御する技術を確立するとともに、本技術によって液晶応用光デバイスの試作を目的として行い、以下のことが明らかとなった。 1)AFMラビングする膜厚の知られた液晶薄膜を作成するため、溶剤による液晶の希釈およびスピンコート法を用いた。このために、液晶薄膜の膜厚を精度よく測定するための方法を考案した。先端直径が100nm以下の微細ガラスプローブ先端を、その軸に対して直角に微小振動(振幅10nm以下)させてプローブ先端が表面に接触すると第1の減衰が生じ、次に基盤表面に近づくと第2の大きな減衰が生じる。これら2つの減衰が得られるプローブの移動距離から膜厚が計測される。この測定法により10nmの精度で液晶膜厚を計測することに成功した。 2)スピンコート法により作成された膜厚の知られた液晶薄膜に、プローブ押しつけ力、走査速度等のパラメータを変えてラビングをすることで得られたAFMラビング膜を、分子の配向状態が観測できる複屈折近接場光学顕微鏡を用いて複屈折の位相差と主軸方位分布を観測および定量評価した。この結果、プローブ走査速度は比較的低速に、プローブ走査密度は1ミクロンあたり1本とすることで確実な配向が可能であること、プローブの押しつけ力は、最低0nNでも配向出来ることが分かった。また、AFMの走査モードをベクトル走査とすることで、任意の配向パターン(放射状、同心円状、格子状およびその組合せ)を製作することに成功した。 3)放射状パターンと直線配向基盤の組合せによる液晶セルを製作し、放射偏光子を用いて新規な複屈折計測を考案した。本手法の特徴は、偏光変調をせずに短時間で計測できることである。実験の結果、精度に課題が残るものの、予期したとおり高速に測定出来ることが明らかとなった。
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