研究課題
本年度の研究成果として、大きくわけて需要側面の研究(研究計画におけるB1、D2に相当)と供給側面の研究(研究計画におけるB2に相当)を実施した。前者については、研究発表の1、後者については研究発表の2にその一部を既に発表している。残りの成果についても次年度の早期に実施する予定である。需要側面の分析では、これまでに開発した代替を含む需要モデルについて、データを追加し分析を行った。この分析では、「携帯電話の普及初期において無線呼出しサービスと第一世代携帯電話サービスの間に代替性があり、このため携帯電話の普及が抑制された」という仮説を検証することを試みている。方法としては、携帯電話と無線呼出しばかりではなく、PHS、固定電話(アナログ、ISDN)を含む一般的なモデルを構築している。分析の結果、第二世代携帯電話と無線呼出しとの間の代替関係は確かに確認されたが、第一世代との代替関係は見出せなかった。これには、モデルの推定精度に若干の問題点があるということも関係している。暫定的な結論としては、携帯電話の普及初期における市場規模の低迷は、他メディアとの代替関係に起因するものではなく、携帯電話のコストそれ自体に起因することが示されたということであり、その後若年層の無線呼出しから携帯電話への乗り換えが生じ第二世代携帯電話の爆発的な普及が起きたという説明が可能になる。今後、推定精度を高めるために幾つかの方法を確認する予定であるが、上の結果は、二つの意味で重要な成果をもたらしたと考える。すなわち、第一に電気通信市場のダイナミクスを予測・説明するには、需要側面ばかりではなく費用の側面(料金要素)が無視し得ないことが示されている。第二に、推定精度についてはシミュレーション・モデル全体を構築し、その感度分析という形で検証を行う可能性が示されたことである。これらについては次年度に取り組む予定である。費用側面の分析では、費用関数を推定するという方法ではなくDEA(Data Envelopment Analysis)の可能性を検証する作業を行った。従来DEAは企業経営効率性を計測する手法として活用されるきらいがあったが、これが十分に費用分析に利用できることを示すことができた。ただし、DEAと従来の統計的推定による手法には相違点があり、必ずしも同一の結果を得るに至っていない。この相違が何に基づくものであるのかを今後明らかにする必要がある。研究全体としては若干の計画の遅れが見られるが、研究項目のB3(産業分析方法論)、B4(ネットワーク外部性)については若干の成果が得られているので、これらを早急に論文にとりまとめ、次年度の計画につなげたい。
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InfoCom Review 36号
ページ: 1-15
International Telecommunications Society 15^<th> Biennial Conference, Berlin. (Proceedings)
ページ: 1-11