研究概要 |
本研究は,地震時ライフライン機能の被害と復旧過程を概略的に把握する方法論を開発し,これに基づいて「広域地震災害マネジメント」の支援を目指すものである.第二年度の本年度は,製造業を対象として,供給系ライフラインの機能停止が及ぼす広域的な影響評価を行った.まず米国のATC-25により規定された業種別のライフライン重要度係数に基づいて,供給系ライフライン停止パターン(8通り)ごとの製造業の機能充足度を定量化した.次に,供給系ライフライン停止パターンの確率分布の時系列予測モデルを構築し,各業種の機能充足度の時間的推移を推定するモデルに拡張した.さらに,東海地方の震度分布と事業所・企業統計調査による従業者数データをこのモデルへの入力として,製造業の機能的充足度の時間的推移を簡易的に推定する方法を開発した.工業統計調査による製造品出荷額のデータを考慮してこれを貨幣価値に換算し,東海地方の製造業が地震により受ける経済的影響をマクロ的に推計した.また,ライフライン機能停止が,製造業における企業間のサプライチェーンに及ぼす影響をミクロ的に評価するためモデルを構築した.製品受注から原料発注,製品製造,製品輸送に至るサプライチェーンをシステム・ダイナミクスでモデル化し,これに影響を与える要因として,ライフライン機能停止や輸送能力低下などを組み込んで,地震時機能水準をシミュレートできるツールを開発した.想定東海地震の推定震度分布のもとで,サプライチェーンの機能水準の時間的推移を数値計算した事例を示すとともに,各種の対策を行った場合の効果を比較検討した.以上により,東海地方の製造業が受ける経済的影響をマクロ・ミクロの両観点から捉えることができた.ライフライン機能停止の影響を踏まえた上で,事業継続計画策定など広域地震災害マネジメントの実践のために有用な情報を提供することが可能となった.
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