1)半数体精細胞特異的イントロンレス遺伝子Tact1の発現に必須な脱メチル化が精子形成のどの時期に起きるかを詳細に解析するため、各分化段階の生殖細胞の単離を試みた。Collagenaseにより完全に間質細胞を除去した精細管をTrypsin溶液中で断片化し含まれるすべての細胞を単細胞として回収した。これらをエルトリエーターにて細胞のサイズ依存的に分画し、半数体精細胞とパキテン期精母細胞を80-90%の純度で分画する条件を確立した。 2)発現を終えた後のTact1遺伝子の再メチル化がどの状態の精子で起きるかを調べた。精巣内で形態形成を終えた精子は、精巣上体で成熟し、輸精管に運ばれる。それぞれの部位から精子を回収して、Bisulfite-PCR sequence法にてメチル化を調べた。精巣から精巣上体頭部までは全くメチル化されておらず、精巣上体尾部で、わずかにメチル化される部位が出現し、輸精管近位部で徐々にメチル化レベルが上昇し、輸精管遠位部で完全にメチル化されることが明らかとなった。このメチル化は、Tact1遺伝子内部のCpGアイランド内から始まり、遺伝子の上流・下流両側に向かって経時的にレベルが高くなった。このことは、特定のゲノム領域のメチル化は、開始と伸長の二段階からなり、Tact1遺伝子の場合、CpGアイランド内が開始部位となることを示唆している。 3)新規メチル化転移酵素遺伝子であるDnmt3aとDnmt3bをCre/loxPシステムを用いて生殖系列特異的にノックアウトし、Tact1遺伝子再メチル化に対する影響を調べた。単独でノックアウトした時も、片方をノックアウトし、一方をヘテロで欠失した時も、再メチル化は完全に抑えられることは無かった。さらにそれぞれの特異的抗体を用いて精子の免疫染色やウエスタンブロッティングを行ったところ、精子核に既知の新規メチル化酵素の存在は確認されなかった。これらのことは、未知のメチル化システムが精子核内ゲノムメチル化に関与する可能性を示唆する。
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