本年度は研究代表者が開発した「ジスルフィドプロテオーム」により、イネ種子発芽における新規レドックス機構の解析を行い、新しいレドックスモデルを確立した。アリューロン層にあるチオレドキシンをNADPHとE.coliNTRにより活性化し、in vitroでendogenousなチオレドキシンのターゲット解析を行った。活性チオレドキシン存在下でESP(embryo-specific protein)のスポットが消失し、システインプロテアーゼの阻害剤であるロイペプチン存在下でスポットが復活したことから、チオレドキシンがシステインプロテアーゼを活性化し、これがESPを分解したと考えられる。また、チオレドキシンとロイペプチン存在下でESPが蛍光検出されたことから、チオレドキシンがESPのジスルフィドを還元し、分解されやすくした(アンフォールド)と示唆された。in vivo(種子発芽環境下)で同じレドックス反応が起こることを確認し、仮説を裏付けた。以上の結果から、チオレオドキシンは発芽の際にシステインプロテアーゼを活性化し、同時にその基質であるESPをアンフォールドすることで効率的に分解すると考えられる。アリューロン層に多いESPは貯蔵蛋白質にアミノ酸配列相同性が低くシステイン量が多いため(16S-S/392アミノ酸)、機能蛋白質の可能性が高い。また、発芽後に合成されカルシウム存在下でチオレドキシンにより活性化されるセリンプロテアーゼ(チオカルシン)により、種子発芽時に貯蔵蛋白質が消化されることが報告されている。チオレドキシンは、複数の基質が異なるプロテアーゼを段階的に活性化することで種子発芽時に蛋白質分解のファインチューニングを行うことが示唆された。本研究成果はProteomicsに投稿中である。
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