研究概要 |
昨年度はイネ種子発芽の際、レドックス酵素チオレドキシンが基質が異なるプロテアーゼを段階的に活性化し、機能・貯蔵蛋白質分解のファインチューニングを行うことを明らかにした(Yano & Kuroda, Proteomics,2006)。本年度は、このメカニズムの工業的な応用を試みた。種子貯蔵蛋白質は分子内・分子間ジスルフィド結合を形成し、プロテインボディ等の貯蔵器官にコンパクトに収納されている。発芽の際にはチオレドキシンがジスルフィド結合を還元し、蛋白質構造をアンフォールドすることで、その後のプロテアーゼ消化を容易にする。一方、炊飯米や豆類・パン等の食品として種子加工品を摂取した際、ある種の貯蔵蛋白質がアレルギーを引き起こすのは、消化器官ではアンフォールドせずにプロテアーゼ消化を行うことが一因と考えられる。そこで、昨年までの研究成果を踏まえ、チオレドキシンをアレルゲンの低減化に工業利用することを試みた。イネ種子から臨床的にアレルゲンとされる塩溶性画分を抽出し、カタログ化した。抽出物をトリプシン処理すると、アレルゲンの一部が残存した。一方、チオレドキシンによるin vitroの還元処理で、アレルゲンの分子内ジスルフィド結合が還元され、分子構造がアンフォールドされることをSH基に特異的な蛍光試薬を用いて確かめた。この処理後にプロテアーゼを作用させると、アレルゲン画分のほとんどの蛋白質が消化されることを二次元電気泳動により確認した。以上の結果から、解明した生理メカニズムを工業的に応用し、アレルゲンを低減できる可能性が示唆された。3年間の研究期間において、「新しいレドックス制御機構を解明し、産業への有効利用を図る」という研究目的を達成した。研究成果の一部を、Proteomics誌(IP=6.1)に投稿した(Komatsu & Yano, Proteomics,2006)。
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