生物活性天然物の活性本質の解明や医薬農薬開発への応用展開にとって、立体化学は必要不可欠な情報である。本研究では、構造未定の大環状ポリエーテルマクロライド天然物を対象として、合成アナログと天然物のスペクトルデータの比較を通じて大環状化合物全体の立体構造を推定する方法論の開発と、全合成による物質供給を目的に研究を企画した。平成16年度は、アクチン作用性ポリエーテルマクロライドのゴニオドミンAの全相対配置及び絶対配置決定に向けて次の結果を得た。(1)既報のNMRデータを基にC1〜C7、C6〜C16、C15〜C21、C20〜C25、C31〜C36部の相対配置を推定した。(2)推定相対配置に基づき各C1〜C7、C6〜C16、Cl5〜C25、C31〜C36部の幾つかのジアステレオマーを合成した。(3)合成したC1〜C7、C31〜C36部のジアステレオマーと天然物のNMRを比較したところ、一致する挙動を示すものが確認された。天然物はそのジアステレオマーと同一の相対配置を持つと考えられる。(4)C15〜C25部の相対配置の候補となる2つのジアステレオマーを鎖状化合物として合成したが、いずれも天然物のNMRを再現しなかった。そこで、天然物と同様な大環状構造を持たせてゆるい束縛を付与(大環状アナログ化)したところ、2つのジアステレオマーの結合定数に差が生じ、片方が天然物と同様のNMR挙動を示した。天然物のC15〜C25部はそのジアステレオマーと同じ相対配置と考えられる。(5)C6〜C16部の合成品と天然物はNMR挙動が異なり、立体配置ではなく立体配座に差異があることが判った。この差異は大環状構造の有無に由来すると予想され、今後合成品を大環状アナログ化して天然物の立体配座の再現を検討する予定である。以上、本年度はゴニオドミンAのポリエーテル部の部分的な相対配置を明らかに出来た。
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