この研究は、多様な海産無脊椎動物・原生動物と共生する褐虫藻(Symbiodinium spp.)において、自由生活時に比べて共生時に発現の上昇する遺伝子を同定・解析することを目的として開始した。そのために前年度は、PL-TS-1褐虫藻が感染したウスエダミドリイシ稚サンゴを用いて、suppression subtractive hybridization法により、共生状態と非共生状態で発現レベルの異なる褐虫藻mRNAを同定することを目指した。しかし前年度報告書に述べたように、このモデル共生系は褐虫藻の遺伝子発現の変化を調べるには不適であると考えられた。そのかわり、褐虫藻の存在下で発現の上昇するサンゴのmRNAを2つ同定することができた(AtSym-01および02)。 今年度はAtSym-01および02のcDNA配列を解析し、コードされるタンパク質の機能を推定した。02は膜貫通タンパク質をコードしていると考えられたが、既知のタンパク質と配列の類似が見つからず、その機能は今のところ不明である。01は脊椎動物の硫酸イオントランスポーターと高い相同性を示したことから、硫酸基を持つ高分子の合成に関わっていると思われる。共生藻の光合成によりサンゴ骨格の形成が促進されることが知られている。骨格の有機基質には硫酸多糖が含まれていることから、AtSym-01は骨格形成部位への硫酸イオンの輸送を行っている可能性がある。 ウスエダミドリイシに共生させる褐虫藻株として、シャコ貝由来のPL-TS-1株を用いてきたが、より良い共生パートナーとなる褐虫藻株を探すために、さらに造礁サンゴ由来の2株を入手して稚サンゴに感染させ長期間飼育(3ヶ月)を試みた。新たに試した2467株は、PL-TS-1株よりも長期に渡って共生を維持し、稚サンゴもより大きく成長した。このことから、2467株はウスエダミドリイシ稚サンゴにとってPL-TS-1株よりも良いパートナーであると考えられた。
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