ミミズは、畑や林の土地を良い状態に保っためになくてはならない重要な生物である。つまり、ミミズは農業や人類の栄養-ひいては人類の繁栄という観点からも重要な生物である。近年、オゾン層の破壊など気圏環境の劣化による地表での紫外線放射量の増加が問題となっており、植物細胞への影響に関連した研究も盛んに報告されるようになった。しかし、その報告の多くは植物の生理、形態学的な研究である。報告者は、紫外線放射量(特に、UV-B)の増加によりダメージを受けた植物組織から遊離される化学物質がミミズに与える忌避作用とそれに伴う生態系への影響について研究を行ってきた。 UV-Bダメージを与えたトウモロコシ、ダイコン、およびキャベツの芽生えからミミズの忌避物質としてヒドロキサム酸、イソチオシアナート、およびインドールアセトニトリルをそれぞれ単離した。トウモロコシに関しては、ヒドロキサム酸の類縁体の単離を試みた。また、自然に近い環境条件下における、これら忌避物質のミミズに対する忌避行動を観察し、この忌避行動に際してミミズは警報フェロモン用の物質を出しているらしいことも分かってきた。UV-Bダメージを受けた植物組織から遊離される化学物質は、興味深いことに、光屈性の研究で得た化学物質と同様なものではないかと考えられる。また、ダイコンから単離したイソシアナート類を除きトウモロコシのヒドロキサム酸類やキャベツのインドールアセトニトリル類は若いステージでは生合成されているが、成長した植物体からは確認できていない。 ミミズがその数を減らすということは、農耕用の土地に限らず肥沃な土地の減少を意味しており、この研究は紫外線放射量の増加により生態系に与える悪影響の新しい側面を明らかにできたものと考えている。
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