研究概要 |
「昆虫の社会性行動はどのような原因で起こり,コミュニケーションはどのように獲得するのか?」社会性行動を解発する刺激や要因を解明すると共に,社会性行動の発達過程を司る分子基盤を明らかにしたい.これらを明らかにするため,社会性昆虫のミツバチをモデル生物として用い,昆虫の社会性行動の獲得・発現・発達とその制御に関する分子基盤を知る目的で,ここでは,嗅覚・視覚情報に焦点を当て,下記に示す3項目(a, b, c)について基礎的研究を行った.(a)社会性行動(衛生グルーミング行動)を解発する情報化学物質(グルーミング行動解発因子)の同定,(b)社会性行動(個体間コミュニケーション)を解発する情報化学物質の同定:個体間コミュニケーションに関与する化学的因子の同定,(c)加齢・老化に伴う社会性行動(グルーミング行動・個体間コミュニケーション)の発現・発達過程の解析. 平成17年度は,(a)・(b)について研究を行い,グルーミング行動および個体間コミュニケーションを解発する因子の同定に力を注いできたが,(a),(b),(c)は,互いに密接に関連しているため,機を見てそれぞれの課題を並行して進めた.まず,巣箱の周辺を観察した.特に巣門周辺における働き蜂の行動に重点をおき,外勤蜂の行動と門番の行動を観察した.(1)衛生グルーミング行動には,ダニ由来の脂肪酸類およびエステル類が関与していることが明らかになった.(2)外から帰った外勤蜂は,巣門の出入り口付近で,門番や巣門にいる働き蜂との間で,衛生グルーミング行動を頻繁に行っていることが明らかになった.(3)ミツバチの天敵であるウスグロツヅリガ成虫(以下,ツヅリガと略)に対する行動調査を行った結果,働き蜂はツヅリガを巣の外へ捨てる行動が頻繁に観察された.また,ツヅリガは働き蜂に対して敏感に反応し,逃避行動を取ることがわかった.(4)働き蜂がツヅリガを認識する際に利用する情報化学物質の候補化合物を検索するため,ツヅリガ抽出物をGC/MS等の機器分析に供し,体表炭化水素類・脂肪酸類・ステロール類・アルデヒド類を検出した.(5)これらの実績について,日本昆虫学会,応用動物昆虫学会,国際化学生態学会,日本動物学会,アジアー太平洋昆虫学会議,アメリカ昆虫学会で,発表を行った.(6)上記の(1),(4)で検出された化合物の標品を用いた生物試験を行い,生理活性が認められれば,適宜報文にまとめて公表する予定である.
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