グルタミン酸は哺乳動物の中枢系での代表的な神経伝達物質として記憶や学習など高次の脳機能を司っている。グルタミン酸作動性神経終末にはグルタミン酸を貯蔵したシナプス小胞が集まっている。細胞内でのグルタミン酸の輸送・濃縮を担うのが小胞性グルタミン酸トランスポーター(Vesicular Glutamate Transpoeter : VGLUT)であり、2000年にクローニングにより実体が明らかにされた。これまでに4-methylglutamic acidやtrans-ACPDがVGLUT阻害活性を持つことが明らかになっている。しかしこれらの化合物はグルタミン酸受容体やシナプス性グルタミン酸トランスポーター(EAAT)にも活性を持つ。また、細胞内で作用するためには、細胞膜を透過する必要がある。我々はVGLUT選択性の向上・活性強度の向上・細胞膜透過性の向上の三点を目標として、trans-ACPD誘導体を合成することを試みた。まず細胞膜透過性を向上させるために、カルボン酸部分をエステルに変換した。代謝調節型受容体への作用も軽減できる。エステル体には取り込み阻害活性はないが、細胞内ではエステラーゼによって切断され活性を回復するものと考えられる。ジメチルエステル、モノメチルエステルについて、シナプトゾームでのグルタミン酸取込阻害と小胞への取込阻害を比較したところ、5mMでは共に小胞性トランスポーターを58%阻害した。しかしモノメチルエステルの方がシナプトゾームでのグルタミン酸やGABA取込への影響が少なかったので、モノエステル体について更に検討することにした。現在エチル、プロピルなどのエステル体を合成して検討している。
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